• 前回に引き続き、「PDF ファイルを印刷すると粗くなる?」というテーマで、前編/後編の2回に分けてお送りしています。

    前回の内容を少しおさらいします。

    Web ブラウザから直接印刷すると印刷結果が思ったより粗くなるという事象が発覚し、ベクターファイルからビットマップファイルへの変換精度が良くないことが原因ではないか、というところまで分かってきました。今回は、PDF データがどのように構成されているのかについても触れながら、より高品質な印刷をするために大事なポイントをまとめていきます。

  • 目次

【前編】

  • PDF ファイルを印刷すると粗くなる?
  • PDF 印刷時はベクターファイルからビットマップファイルに変換する
  • Web ブラウザから印刷するとビットマップファイルが粗くなる
  • Adobe Acrobat Reader から印刷するとよりきめ細かな設定ができる

【後編】(今回の記事内容はこちらです。)

  • PDF の正体

そもそも PDF とはどのようなデータなのでしょうか。

PDF という形式は、印刷に特化した PostScript というプログラミング言語を元にして作られています。PostScript 言語自体は 1980 年代に Adobe 社によって発表され、文字や図形などを内部データとして持ち PC とプリンターで効率良く処理するために生まれた言語です。この PostScript 言語をベースにしている PDF の中身も似たようなものと思っていただければ、と思います。

PostScript 言語というのは、簡単に言ってしまえば「印刷指示情報の集まり」ということになります。つまり、PDF には印刷に特化したデータが詰まっているんですね。そして、この「印刷指示情報の集まり」というのは、点をどこに表示するかとかの座標情報や曲線をどうやって表示するかとかの計算式の集まり、ということになります。ベクターデータのことですね。PDF 上では、文字も図形もベクターデータなんですね。写真などはビットマップデータとして含まれていますが、基本的には PDF はベクターデータで構成されていると考えて良いです。

Web ブラウザから印刷するときは、これらのベクターデータをすべて捨てて1枚のビットマップ画像にしてからプリンターに送っていました。反対に、Adobe Acrobat Reader では、これらのベクターデータをすべて保持したままプリンターに送ることもできるのです。

Adobe Acrobat Reader から PDFデータをプリンターに送ってあげることで、高品質な印刷をする下地ができます。

  • 正しいプリンタードライバを使えば品質が改善される

でも、結局最後にはビットマップ画像でプリントするのだから、結果は同じなのではないか、という声が聞こえてきそうです。

しかし、実際に Adobe Acrobat Reader から印刷すると、Web ブラウザから直接印刷したときよりきれいに印刷されるはずです。なぜ、きれいに印刷されるのでしょうか。

それは、プリンターの製造元メーカーが提供する「プリンタードライバ」を使っているからです。

新しいプリンターを購入して PC 上で設定をしていくときに、そのプリンターの製造元のメーカーが提供している「プリンタードライバ」というものを PC にインストールしますよね。このプリンタードライバを介することによって、そのプリンターにとって最適な(設定次第では、よりきめの細かい)ビットマップ画像に変換して、プリンター側に送ることができるのです。

正しいプリンタードライバを介して印刷すると、一般的な家庭用のインクジェットプリンターでもオフィスにあるようなビジネスプリンターでも、それなりの品質になるはずです。

  • PostScript 対応プリンターを使えばより高品質になる

さらに、PostScript 言語に対応したプリンターを使えばより高品質なプリントができます

さきほど挙げた一般的な家庭用のインクジェットプリンターなどは通常、PostScript 言語に対応していないプリンターです。PostScript 非対応の一般的なプリンターは、PDF のベクターデータをそのまま受け取ることができません。PC のプリンタードライバを介して変換されたビットマップ画像しか受け取れません。

しかし、PostScript 対応プリンターであれば、PDF のベクターデータをプリンター側でうまく解析してくれます。ベクターファイルからビットマップファイルへの変換処理の精度が、Web ブラウザや PC のプリンタードライバよりも高精度であることが多いです。なんてったって、PostScript 対応プリンターは Adobe 社認証プリンターということでもありますから。詳しくいえば、プリンター側で RIP (Raster Image Processor)処理をしてくれるプリンターである、とも言うことができます。文字通り、プリンター側でビットマップ画像を作ってくれる、ということです。

なので、PostScript 対応プリンターに PDF を送れば、(プリンター側の詳細設定次第ですが)Adobe 社が認めるような品質で出力できますよ、ということになります。

  • 【まとめ】PDF をきれいに印刷するには

PDF をきれいに印刷するには、

  • (Web ブラウザの印刷機能ではなく)Adobe Acrobat Reader から印刷する
  • プリンターのメーカーが提供するプリンタードライバをインストールしている PC で印刷する

という2つの条件を満たす必要があります。また、

  • PostScript 対応プリンターを使うとよりきれいに印刷できる

というのも、押さえておきたいポイントですね。今回ご説明させていただいた各印刷工程を図としてまとめるとこのようになります。

ここまで、大雑把に「きれいに」と表現してきましたが、きれいに印刷するということは、つまり、「ベクターデータの表現をより正確にプリンター側に伝える」ということとも言えますね。

PostScript 対応プリンターは、一般的な家庭用プリンターより少々お高いとは思いますが、オフィス向けビジネスプリンターなどでは対応しているものも多いかと思います。

もしも PDF をプリントしたときに思った通りに出力されない、というときには、これらのポイントをご確認いただくと原因がわかるかもしれません。

  • ここまでお読みいただきありがとうございます。いかがでしたでしょうか。

    筆者はシステム部門に所属しておりますが、やはり DTP や印刷の世界は奥が深いです。この件は良い学びとなりました。次回以降も皆様のお役に立てるような情報を発信していけたらと思います。